高齢犬に対する手術の考え方 ~乳腺腫瘍の症例~

乳腺腫瘍の手術を例に、高齢犬の手術についての当院の考え方をお伝えしたいと思います。

症例は12才のラブラドール・レトリバー
しばらく前から乳腺にしこりがあったのですが、知人に相談するもの
「高齢だから手術は危険だろう」
との意見があり、どうすれば良いのか悩んでおられました。
そうする内に腫瘍が急速に大きくなったため当院を受診されました。
腫瘍の写真はこちら↓
img_0_m
すごい大きさの腫瘍です。
直径は20cm以上ありました。
左胸にも中程度のサイズの腫瘍がありますね。
発生部位からどちらも乳腺腫瘍が疑われました。
 
通常なら乳腺腫瘍は手術での切除が第一選択です。
(他にお勧めできる治療法がありません)
ですが12才の大型犬です。
人で言えば90才前後です。
麻酔の危険度も若い子に比べれば高いのは間違いない・・・
 
さて、皆さんならどうされますか?
 
 
私からは「手術にて切除」をご提案いたしました。
 
理由は以下の通り。
①術前の検査から手術に耐えられる可能性は高い
 
②本人はとても元気 ⇒ あきらめるのはもったいない
 
③腫瘍は急速に大きくなっていた。
 また液体貯留を疑わせるポヨポヨした感触が全体にあった(=大量の血液が溜まっている可能性 大)
 ⇒腫瘍に傷がつくか、皮膚が耐えられなくなり破れた場合に大量出血の恐れあり
 
 ③は出血の程度によっては失血死もありえます。
 その可能性が「手術をしない方が良かった事態(術中死、術後の経過不良、等)」よりも高い、
 と判断された。
 
 
これらをご説明させていただき、飼い主さんも手術を希望されました。
 
術中の写真がこちら↓ (見ても大丈夫な方はクリックしてください。拡大します)
 
術中写真
 
 
腫瘍に血液を運ぶ血管がありました。
 
それも極太の動脈です ( ̄□ ̄;)!!
 
こういった血管が複数存在しましたが、昨秋に導入しました超音波メスのおかげで
 
短時間に処理できました。
 
幸い麻酔は安定していたため、予定通り左側の乳腺全摘出を実施いたしました。
 
麻酔の覚めも良く、術後の経過も良好でした。
 
抜糸後の写真はこちら↓


腫瘍がなくなってスッキリしましたね(^^)b
 
毛も生えてきましたし、あと2~3週間後には腫瘍があったとは分からなくなるはずです。
 
飼い主さんには「腫瘍を取ってから、お散歩での動きが全然違う!すごく元気になった」と
 
仰っていただけました。
 
きっとワンちゃん自身も腫瘍が重くて辛かったんでしょうね(^▽^)
 
 
========================================
 
高齢のワンちゃんで腫瘍が見つかった場合、「高齢だから手術は心配。やめときます」と仰る方は
 
多いです。
 
高齢であるほど麻酔のリスクが上がるのは事実ですし、ご不安になるのは当然です。
 
また“高齢”以外にも手術を避けたい理由はあるでしょう。
 
ですが、“手術をしなかった場合にどうなるか”、も考えてみてください。
 
手術可能なタイミングを逃したばかりに、後悔しなければいけないケースも少なからずあります。
 
高齢でも手術可能なケースは多々あります。
 
術前検査で異常が見つからなければ12才くらいまでなら手術可能なことは多いですし、
 
それ以上でも必要あれば実施します。
 
 
“高齢”を理由に腫瘍をあきらめておられたら一度ご相談ください。
 
もしかしたらお力になれるかもしれません(^-^)/